悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが英雄ゼロの手によって討たれてから、既に10年以上の時が流れた。
あの頃18歳だった少年も、すでに青年期を超え壮年期に入っている。それだけの時間が過ぎた。英雄ゼロはといえば、今も仮面をかぶり世界の指導者として舞台に上がっている。道化の英雄も、少しは様になってきたところだ。
ブリタニアが多くの国を属国としナンバーで呼んでいた時代を、戦争を知らない子供たちが次々と生まれている。いつかまた戦争は起きるだろうが、この平和が1日でも長く続くようにと、カグヤたちは日々奔走していた。ルルーシュの計算どおりと言うべきか、悪逆皇帝は今も人々の怨嗟の対象で、ルルーシュが死んだ日は、世界解放記念日と呼ばれ、各国で盛大なお祭りが開かれるようになっていた。
そう、今はそんな時代なのだ。
ルルーシュが望んだとおりの世界が築き上げられる中、かつてルルーシュの悪友であったこの男、リヴァル・カルデモンドは各国をあてどなく彷徨いあるいているC.C.を探し出し、今一緒にピザを食べていた。
すでに30を超えた男が、まだ16歳ぐらいの少女とピザを食べている図は、どう見ても怪しさがあり、周りの視線が痛い。どこからどう見てもこの美少女とリヴァルは親子には見えないし、恋人としても不釣り合いだった。となると犯罪臭しかしないのだ。
そう見られるだろう自覚があったリヴァルは、非常に肩身の狭い思いをしていたのだが、もう一人の当事者であるC.C.は、周りに目など一切気にせず、熱々のピザをはふはふと頬張っていた。とろりと溶けたチーズを器用に舌でからめ取りながら、次々と胃袋に収めていく。これだけ熱いピザを平然と食べる事にも驚いたが、これだけの量を食べても胃がもたれない事が少しだけ羨ましかった。自分も彼女ぐらいの年なら、1枚ぐらいぺろりと食べていた気もするが、今はもう無理。3ピースほど口にしたが、もう胃がもたれ始めていた。手の止まったリヴァルに気がついたC.C.は、ようやくピザからリヴァルへと視線を向けた。
「なんだ、もう食べないのか?美味いぞ?」
「美味しいんだけど、俺にはちょっときついかな~なんて」
もう年なんだからと笑うリヴァルに、C.C.は不思議なものを見るような視線を向け、首を傾げた。
「なんだ、まだ30年程度しか生きていないのに、ピザの1枚や2枚で音をあげるなんて、お前、どこか悪いんじゃないのか?」
彼女の言う1枚2枚は、切り取られたピザの枚数ではなく、丸いままのピザの枚数だ。それもMじゃなくてLサイズ。もたれるのを別にしても、食べきれない。痩せの大食いとは彼女のような人を指すのだろう。
「いや、俺はいいから、沢山食べてよ」
「もちろん食べるぞ?お前の分もちゃんと食べてやろう。よこせ」
そう言うと、食べかけのピザも全て自分の手元へと運んでしまった。
なかなかの食い意地に、思わず笑ってしまう。
「それにしても、よく私が解ったな?」
「あ~それは、カレンにこれをもらってさ」
取り出したのは角が擦り切れた写真だった。
それは初代ゼロと共に映っている写真。
懐かしい姿に、思わず目を細めた。
「カレンから、私の事を聞いたのか」
「ゼロの、いや、あいつの愛人って呼ばれてて、一番近い所にいって。だから、きっと全部知っているって・・・あいつが、皇帝だった時も一緒だったんだろ?」
「ああ、あの日まで共にいた」
「そっか。なら、教えてくれないか」
「真実を、か?知ってどうする?」
「今更知っても何も変わらないことぐらいわかってる。いや、あいつがやったことを、変えちゃいけないことぐらいわかってるんだ。でも、俺、どうしても知りたくて。あの日、あいつが刺された姿が今も忘れられなくて・・・ずっと調べていたんだ」
悪逆皇帝が撃たれた日、リヴァルはパレードを見に行き、ルルーシュが死ぬ瞬間を目撃したのだ。
リヴァルの姿形は確かに年相応に時を重ねているが、その言動はまるであの頃のままだ。あの日の出来事に囚われ、心はあの日で成長を止めてしまったようにも思えた。それだけ、衝撃が強かったという事か。
「ミレイさんにも、カレンにも、ニーナにも、もうこれ以上調べるなって言われ続けてたんだけどさ。どうしても納得できなくて、俺はあの日からずっと前に進めないんだ。あいつが、明日を生きろってい言ってるのは解ってるんだけど、どうしても・・・」
過去に囚われてしまう。忘れようとがむしゃらに仕事をしていたこともあったが駄目だった。
「だから、知りたいのか。全ての真実を」
前に進むために。
「教えてくれ。俺に出来る事なら何でもする。このとおりだ」
リヴァルは周りの目も忘れ、テーブルに額をつけるほど頭を下げた。
「なんでも、か」
「ああ、なんでも・・・ああ、誰かを殺せとか、そう言うのはちょっと無理だけどさ」
「では、地獄に堕ちろ」
「え?」
「永劫の地獄に堕ちる覚悟があるならば、私は全てを教えよう」
「え?地獄?なに?どういう事?」
「私があの頃と変わっていない事が不気味だったのだろう?人違いじゃないかとこの1週間、声をかけるのをためらっていたのだろう?」
「・・・そうなんだ。この写真と全然変わってないから、本当にC.C.さんなのかなって、他人の空似じゃないのかなって、だから声をかける決心がつかなくて」
「あの頃と変わっていないというより、私は何年たとうと変わらないんだよ。私は、もう数百年この姿のまま生きている」
「・・・え?」
意味が理解できず、リヴァルは困惑の声をあげた。
「私は、不老不死の魔女なんだよ」